長年勤め上げた会社を退職し、いよいよセカンドライフの始まり。これからは年金での生活が中心となる方も多いでしょう。しかし、ほっと一息つく一方で、「年金って税金がかかるの?」「手続きはどうすればいいの?」といった疑問や不安が頭をよぎるかもしれません。これまで会社が年末調整で行ってくれていた税金の手続きも、これからはご自身で関わる場面が増えてきます。この記事では、そんな年金受給者の皆さまが抱える税金に関する疑問を一つひとつ丁寧に解きほぐしていきます。年金と税金の基本的な関係から、知っておくと得をする控除の仕組み、そして確定申告の要不要まで、分かりやすく解説します。この記事を読めば、ご自身の年金と税金のことがすっきりと理解でき、安心してセカンドライフの計画を立てられるようになるはずです。
年金は「雑所得」!税金の基本的な仕組み
まず、年金と税金の関係を理解する上で最も大切な基本からお話ししましょう。実は、私たちが受け取る公的年金は、税法上「雑所得」という所得の一種として扱われます。給与が「給与所得」であるように、年金も所得として認識され、課税の対象となるのです。しかし、年金額の全額にそのまま税金がかかるわけではありません。様々な控除制度が用意されており、それらを適用した後の金額に対して税金が計算されます。ここでは、なぜ年金が課税対象になるのか、そして具体的にどのような税金がかかるのかを見ていきましょう。
なぜ年金に税金がかかるのか
年金が課税対象となるのは、その原資が、現役時代に支払った保険料だけでなく、国が負担する税金によっても賄われているためです。また、現役時代に支払う社会保険料は、「社会保険料控除」として所得から差し引かれ、その分の税金が軽減されています。つまり、保険料を支払っていた時には税金の優遇を受けていたため、年金を受け取る段階で課税されることで、世代間の公平性を保つという意味合いがあります。このように、年金は老後の生活を支える大切なお金であると同時に、税法上の所得としての一面も持っているのです。
税金の種類 所得税と住民税
年金に対してかかる税金には、大きく分けて「所得税」と「住民税」の二種類があります。所得税は国に納める国税であり、その年の所得に対して課せられます。一方、住民税は、お住まいの都道府県や市区町村に納める地方税です。住民税は、前年の所得をもとに計算されるという特徴があります。つまり、年金を受け取り始めた翌年から、住民税の納税が始まるケースが一般的です。これらの税金は、後ほど詳しく説明する「公的年金等控除」をはじめとした各種控除を適用した後の所得額をもとに計算されるため、仕組みを正しく理解することが大切です。
年金受給者の強い味方「公的年金等控除」とは?
年金が所得として扱われると聞くと、税金の負担が重くなるのではないかと心配になるかもしれません。しかし、ご安心ください。年金受給者には「公的年金等控除」という、税負担を軽減するための特別な控除が用意されています。これは、給与所得者にとっての給与所得控除のようなもので、年金という収入の性質を考慮して設けられた、いわば年金受給者のための必要経費のようなものです。この控除があるおかげで、年金の収入金額がそのまま課税対象になることはありません。ここでは、この心強い味方である公的年金等控除の仕組みと、具体的な控除額について詳しく見ていきましょう。
公的年金等控除の仕組み
公的年金等控除は、年金の収入金額から一定額を差し引くことができる制度です。これにより、税金を計算する元となる所得金額(これを課税所得と言います)を小さくすることができます。例えば、年金の収入が200万円あったとしても、この控除を適用することで、税金の計算対象となる金額はそれよりもずっと少なくなります。この控除は、公的年金、つまり国民年金や厚生年金などを受け取っているすべての人に適用されるため、年金生活における税金の負担を大きく和らげてくれる非常に重要な役割を担っています。
年齢や年金額で変わる控除額
公的年金等控除の額は、一律ではありません。年金を受け取る方の年齢や、その年の公的年金等の収入金額によって細かく定められています。具体的には、65歳未満の方と65歳以上の方とで控除額の計算方法が異なります。一般的に、高齢者の生活に配慮し、65歳以上の方の方が控除額は大きく設定されています。例えば、65歳以上の方であれば、公的年金等の収入金額が330万円未満の場合、最低でも110万円が控除されます。つまり、年金収入が110万円以下であれば、公的年金等控除を差し引くと所得はゼロになり、所得税はかからない計算になります。ご自身の年金額と年齢に合わせて、どのくらいの控除が受けられるのかを一度確認してみると良いでしょう。
知らないうちに納税?天引きの仕組み
年金生活が始まると、指定した口座に年金が振り込まれますが、その金額を見て「思っていたより少し少ないな」と感じることがあるかもしれません。その理由の一つが、税金の「天引き」制度です。年金からも、給与と同じようにあらかじめ税金が差し引かれている場合があるのです。この仕組みを知らないと、なぜ手取り額が減っているのか分からず不安になってしまいます。ここでは、所得税の「源泉徴収」と住民税の「特別徴収」という、二つの天引き制度について解説します。これらの仕組みを理解することで、ご自身の年金の手取り額について、より深く納得できるようになるでしょう。
所得税の「源泉徴収」
所得税の天引きは「源泉徴収」と呼ばれます。65歳以上の方で、年間の年金受給額が158万円以上の場合、また65歳未満の方で108万円以上の場合に、所得税が源泉徴収される対象となります。年金を支払う機関(日本年金機構など)が、あらかじめ所得税を計算して年金から差し引き、本人に代わって国に納付してくれる仕組みです。ただし、この源泉徴収される金額は、あくまで概算で計算されています。そのため、後述する扶養控除や医療費控除などの個別の事情は反映されていません。したがって、源泉徴収された税額が、最終的に納めるべき税額よりも多い場合があり、その差額は確定申告をすることで取り戻すことができます。
住民税の「特別徴収」
住民税の天引きは「特別徴収」と呼ばれます。前年の年金所得にかかる住民税が、年6回の年金支給の際に、2ヶ月分ずつ天引きされる制度です。対象となるのは、その年の4月1日時点で65歳以上であり、かつ年間の年金受給額が18万円以上の方です。所得税の源泉徴収とは異なり、こちらは原則として対象者全員に適用されます。これにより、ご自身で金融機関などへ納税に出向く手間が省けるという利点があります。ただし、介護保険料も同じく年金から特別徴収されている場合があるため、何がいくら引かれているのかは、日本年金機構から送られてくる「年金振込通知書」でしっかりと確認することが大切です。
年金支払報告書の役割
年金支払者である日本年金機構などは、誰にいくら年金を支払ったかという情報を記載した「公的年金等の源泉徴収票」を発行します。これは給与所得者にとっての源泉徴収票と同じ役割を持つ重要な書類です。また、これとは別に、市区町村へも「年金支払報告書」という書類を提出しています。この年金支払報告書の情報に基づいて、市区町村は住民税の計算を行います。つまり、私たちが何もしなくても、行政側は私たちの年金収入を把握しているということです。この報告書があるおかげで、住民税の特別徴収などがスムーズに行われる仕組みになっています。
「確定申告」で税金が戻ることも!
年金生活者にとって、「確定申告」という言葉は少し難しく、面倒な手続きというイメージがあるかもしれません。しかし、確定申告は単に税金を納めるためだけの手続きではありません。払い過ぎた税金を取り戻す「還付」を受けるための大切な手続きでもあるのです。特に年金から所得税が源泉徴収されている方は、確定申告をすることで税金が戻ってくる可能性があります。一方で、一定の条件を満たせば確定申告が不要になる制度も設けられています。ここでは、ご自身が確定申告をすべきかどうかを判断するためのポイントと、申告をすることで得られるメリットについて解説します。
確定申告が必要になるケース
年金以外に所得がある場合は、確定申告が必要になる可能性が高まります。例えば、個人年金保険の満期金を受け取った場合や、アパート経営による不動産所得、あるいはアルバイトやパートによる給与所得が年間20万円を超える場合などです。これらの所得と年金所得(雑所得)を合算して、改めて所得税を計算し直す必要があります。また、公的年金等の収入金額が400万円を超える場合も、確定申告が必要です。これらのケースに該当する方は、翌年の2月16日から3月15日までの間に、税務署へ確定申告書を提出する義務があります。
確定申告が不要な「確定申告不要制度」
年金受給者の負担を軽減するため、「確定申告不要制度」というものがあります。これは、その年の公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ、年金以外の所得金額が20万円以下である場合に、所得税の確定申告をしなくてもよいという制度です。多くの方がこの制度に該当するため、年金収入のみで生活している場合は、確定申告が不要となるケースがほとんどです。ただし、この制度はあくまで所得税に関するものです。住民税の申告は別途必要になる場合がありますので、お住まいの市区町村にご確認ください。もっとも、前述の年金支払報告書が市区町村に提出されていれば、住民税の申告も不要となることが一般的です。
確定申告をするとお得になるケース
確定申告が不要な方でも、あえて申告をすることでお得になる場合があります。それは、源泉徴収された所得税が、本来納めるべき税額よりも多い場合です。例えば、生命保険料控除や地震保険料控除、あるいは後ほど詳しく説明する社会保険料控除や医療費控除、扶養控除など、年金の源泉徴収の段階では考慮されていない各種控除を適用したい場合です。これらの控除を適用して確定申告を行うことで、所得金額が再計算され、払い過ぎていた税金が「還付金」として戻ってくる可能性があります。手間を惜しまずに確定申告をすることで、手元に残るお金を増やすことができるのです。
まだある!使える控除で賢く節税
確定申告をする最大のメリットは、源泉徴収では反映されていなかった様々な所得控除を適用できる点にあります。所得控除とは、個人の事情に合わせて所得から一定の金額を差し引くことができる制度で、これを活用することで課税対象となる所得が減り、結果として所得税や住民税の負担を軽くすることができます。年金生活においても、利用できる控除はたくさんあります。ここでは、代表的な控除である「扶養控除・配偶者控除」「社会保険料控除」「医療費控除」について、どのような場合に利用できるのかを具体的に見ていきましょう。これらの控除を正しく理解し、活用することが賢い節税への第一歩となります。
家族を支える「扶養控除」と「配偶者控除」
ご自身の収入で生計を共にしている配偶者や親族がいる場合、「配偶者控除」や「扶養控除」を受けられる可能性があります。配偶者控除は、年間の合計所得金額が一定額以下の配偶者がいる場合に適用されます。また、扶養控除は、16歳以上の子どもや同居している親など、生計を一にする親族を扶養している場合に適用対象となります。これらの控除は、年金の源泉徴収の際に提出する「扶養親族等申告書」で申告することもできますが、年の途中で家族の状況に変化があった場合などは、確定申告で正しく申告し直す必要があります。家族を支えている方は、ご自身が対象となるかを確認してみましょう。
健康保険料や介護保険料も対象「社会保険料控除」
年金生活者であっても、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、そして介護保険料といった社会保険料を支払っています。ご自身で納付したこれらの社会保険料の全額は、「社会保険料控除」として所得から差し引くことができます。年金から特別徴収されている社会保険料については、特に手続きをしなくても控除が適用されますが、例えば、ご自身の年金から配偶者の国民健康保険料を支払っている場合や、年の途中で就職したお子様の社会保険の扶養から外れて国民健康保険に加入した場合などは注意が必要です。ご自身で納付した保険料の額を証明する書類をもとに確定申告をすることで、確実に控除を受けることができます。
医療費がたくさんかかった年の「医療費控除」
ご自身や生計を共にする家族のために支払った年間の医療費が一定額を超えた場合には、「医療費控除」を受けることができます。具体的には、年間の医療費の合計額から、保険金などで補填された金額を差し引き、さらにそこから10万円(または総所得金額等の5%のいずれか少ない額)を引いた金額が控除の対象となります。病院での診療費や薬代はもちろんのこと、通院のための交通費や、一定の介護サービス費用なども対象に含まれる場合があります。医療費の領収書は一年間大切に保管しておき、確定申告の時期に合計額を計算してみましょう。思いがけず多くの税金が戻ってくるかもしれません。
まとめ
年金と税金の話は、一見すると複雑で難しいと感じられるかもしれません。しかし、その仕組みを一つひとつ理解していくと、決して特別なことではないと分かります。公的年金は「雑所得」として課税対象になりますが、年金受給者の生活に配慮した「公的年金等控除」という大きな控除が用意されています。また、一定額以上の年金からは所得税が「源泉徴収」され、住民税も「特別徴収」によって天引きされるため、多くの方はご自身で納税手続きをする必要がありません。
さらに重要なのが「確定申告」の存在です。公的年金の収入が400万円以下で、かつ他の所得が20万円以下であれば原則不要ですが、医療費が多くかかった年の「医療費控除」や、ご家族を支えている場合の「扶養控除」、ご自身で支払った「社会保険料控除」などを適用するために確定申告をすることで、源泉徴収で払い過ぎた税金が戻ってくる可能性があります。ご自身の状況を振り返り、確定申告をした方が有利になるかどうかを一度検討してみることをお勧めします。年金と税金の正しい知識は、これからの豊かで安心なセカンドライフを送るための大切な備えとなるでしょう。


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